by 安田美絵 @ ルナ・オーガニック・インスティテュート
環太平洋経済連携協定
TPPを知ろう!
STEP1
■第1章
TPPって何?
■第2章
「TPPで発展!」
の勘違い
■第3章
TPPに入ると
どうなる?
■第4章
なぜ日本は加盟
したい?
■第5章
TPPでは
幸せになれない
■第6章
わたしたちに
できること
STEP2
■第7章
TPPと遺伝
子組換え
■第8章
経団連会長と
TPPの関係
■第9章
自由貿易につ
いて考えよう
STEP3
■TPPに関する
Q&A
第7章 TPPと遺伝子組換え
3.遺伝子組換え作物の栽培が始まると
国内では遺伝子組換え作物の商業栽培はまだされていない。
でも、栽培を禁じる法律があるわけじゃないんだ。
農水省にはいろんな遺伝子組換え作物の栽培許可申請が出されていて、既にたくさん認可されている。でも試験的に栽培されているものはあっても、まだ商業栽培はされていない。
それは、栽培しても売れる見込みがないからだ。
国産の大豆は輸入大豆よりも値段が高くなる。それを油の原料にしちゃうんじゃ割が合わない。でも、遺伝子組換え大豆でつくられた豆腐や納豆や豆乳は、そう表示されるから誰も買わない。誰も買わないものをつくってもしょうがないから、誰も栽培しない。
つまり遺伝子組換え作物の栽培を食い止めているのも、やはり「表示」だと考えていい。
表示義務がなくなれば、みんな知らずに遺伝子組換え大豆の豆腐や納豆を食べるようになる。そうすれば遺伝子組換え大豆はもっと売れるようになり、国内での栽培はまたたく間に広がるだろう。
でも、遺伝子組換え作物の栽培は、いったん始めてしまうと、取り返しのつかないことになる。
花粉は風にのって広がるものだからだ。
在来のナタネをつくっていても、隣の畑から遺伝子組換えナタネの花粉が飛んできたら、それを受粉して交雑してしまう可能性が高い。在来の菜種を栽培している農家にとってはいい迷惑だ。こんなとき、モンサント社はどうするか? 賠償する? 謝る? とんでもない。逆にその農家を訴えるんだから、いい性格だね!
カナダのナタネ農家、シュマイザーさんの例を紹介しよう。
シュマイザーさんは広大な農場で何十年もナタネを栽培してきた。丈夫でたくさん収穫できる品種を自分で長年かけて育ててきたんだ。遺伝子組換えナタネなんて、栽培しようと思ったこともない。
そんなある日突然、シュマイザーさんは手紙を受け取った。手紙には「あなたは我がモンサント社の遺伝子組換えナタネを無断で栽培している。特許使用料を払うように。もし払わなければ裁判所に訴えるぞ」と書かれていた。まるで脅迫状だね。
モンサント社は自分が開発した組換え遺伝子を「知的財産」だとして「特許権」を主張している。でも、生命を構成する遺伝子というものに特許権を主張するなんて、自然に対する冒涜じゃないかい? が、その話はひとまず置いておこう。
シュマイザーさんは自分の畑に遺伝子組換えナタネのタネなんか撒いてない。よその畑から飛んできた花粉で交雑が起こったということだ。
しかしなんでモンサント社にはそのことがわかったのか? それはモンサント社の私設警察モンサント・ポリスが勝手にシュマイザーさんの畑に入って、ナタネを盗み出して分析したからだ。泥棒しておいて、人を訴えるんだから、まさに盗っ人猛々しいとはこのことだ。
シュマイザーさんはその手紙を読んで頭に来た。誰が特許使用料なんか払うものか。断固闘うぞ! と裁判に打って出たんだ。でも、裁判の行方はえてして弁護士費用をどれだけ用意できるかで決まってしまうもの。巨大多国籍企業に一介の農家は勝ち目がなかった。シュマイザーさんは裁判に負けてしまったんだ。「モンサント社の品種が一定程度畑にあれば、特許権侵害に当たる」「シュマイザー氏の畑の収穫物も、種子も、すべてモンサント社のものである」という判決が下った……。
でも、それでもシュマイザーさんはめげなかった。新たに別の裁判を起こして、逆にモンサント社を訴えた。「わたしの土地はわたしの財産だ。わたしがこの土地の税金も払ってるんだ。そこにおまえらの財産を放置するとは何事だ。おまえらの責任で片付けろ」とね。もっともだよね! さすがシュマイザーさん。そして、最終的には裁判で和解に持ち込めた。
とはいえ、シュマイザーさんほど頭が切れ、裁判にかける費用も時間もあり、ヤクザ並みの脅しやありとあらゆる嫌がらせに負けない根性もある、というスーパーマンのような農家は少ない。
モンサント社はアメリカやカナダで何百件もの農家を特許権の侵害で訴え、たくさんの農家がそのせいで破産しているよ。
「サルでもわかるTPP(環太平洋経済連携協定)」
by 安田美絵 @ ルナ・オーガニック・インスティテュート(マクロビオティック料理教室&持続可能な食の学校)